[七海] 潜航日誌(DAY7) – ミドルフェイズ「幕間I」

――クリスマス。
――それはイエス・キリストの生誕日を意味する言葉。

『イエス・キリスト』という個人は、地球――すなわちオレの故郷の世界に固有の人物である、と認識している。いや、ひょっとしたら地球以外にも、誕生日がうっかり世界的な休日になってしまったキリストさんは存在するのかもしれないが。

さておき、オレとしてはそんな認識であるわけで、つまり『クリスマス』というイベントを当然のように認識している《この世界》、そしてそれを当然のように受け入れている探索者たちも、オレからすると若干、いやかなり、奇異なもののように思えた。

いや、別に『クリスマス』に限ったことでもないんだが。

基本的には幸いなことに、《この世界》での出来事はオレの理解の及ぶ範疇の話が、とても多いように思える。今のところは “お前ちょっと何言っちゃってるの” みたいな頭のおかしい出来事には遭遇していない――いない――いや少なくとも1件あった。なぜか移動するだけの話のはずなのに空飛ぶイルカにロープに吊された。
さておきである。確かにこの世界にやってきてたかだか1週間と言ったところではあるが、ここまでオレにとって分かりやすい話が続いていくと、逆に、こう、薄気味悪い……とまで言うと言い過ぎかもしれないが、とにかくなにかモヤモヤとしたものが腹の底に溜まっていくような感じはしてしまうのが、正直なところだ。

ひょっとしたら《この世界》自体がタチの悪い大掛かりな冗談で、明日にでも妹あたりが「ドッキリでーす」とか言いながらひょっこりと顔を見せてくるんじゃないか、とか。

さすがに、それは、ないと思うけど。
……結局のところ、どこの世界でも、”人間”の頭で考えつくことには、そう大差はない、とかそいう話で終わるのかもしれない。

『クリスマス』についての検索結果を画面に映していたスマートフォンの電源ボタンを押すと、煌々と光っていた画面はすっとその明かりを落とす。

これまたオレにとってたいへん都合のよいことに、スマートフォンの検索機能は万全だ。見えるページや見えないページは存在するみたいだが、ブラウザを開いて検索をすれば、当たり前のようにその結果を表示してくれる。
しかも、充電も減らない。
ただし――どう考えてもそっちのほうが正常な動作に思うけど――電話やメールは、一切通じない。ダイヤル音すら発することなく電話が通じない旨の無機質なアナウンスが流れ、あるいは宛先人不明ですぐにメールが返ってくる。

つまり、ただ検索を出来るだけの板。
それが今のオレのスマートフォンの、控えめに言っても破格の機能である。
なんとなくこのスマートフォンのことは、イルプトオーメルやアルストリア――特にイルプトオーメルには知られたくない。なんとなく。

スマートフォンをポケットにしまい(なお防水だ)、探索帰りのオレは《この世界》における拠点へと足を向ける。最初の数日は《海底探索協会》から支給された資金を費やして宿に泊まっていたのだが、ずっとそうしているわけにもいくまい、と思っていたあたりで、偶然にも遭遇した変わり者の魔法使いが営むマジックアイテムの鑑定屋。
そいつは、オレが探索者のひとりであり、拠点を必要としていると知ると、店の開いている部屋なら使っても構わないと、そう言ったのであった。
対価はオレが探索地で見つけたモノの調査と、あとは若干の雑事。

……急に異世界に飛ばされたこと自体は不運に違いないが、上手いこと《この世界》での足場を見つけることが出来たのは、随分な幸運なのだろう。《元の世界の知識》も、使い方を間違えなければ大きな武器になる。幸運だ。
そもそもの問題に目を瞑れば、当面の不安は、あの魔術師がマトモに仕事をしているところを見ていないことくらいだ。

「あ、帰りにパン買ってこいって話だっけ。いやそれは自分で買えよ……」

当面の生活という不安をとりあえず取り除けば、しばらくは探索に専念できる。あとは探索の先に、目的のモノ――帰還手段がありさえすればいい。

随分と悠長な話に思えるが、こればかりはどうしようもないと思うことにした。


《アカシアの記録》
タイミング:常時
技能:効果参照 難易度:-
対象:自身 射程:- 範囲:-
コスト:-

あなたが持つ異世界の知識を示すスキル。
あなたが行う任意の情報収集判定の達成値に+1D6のボーナスを与える。